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2025.01.15
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誰もが、不安や緊張を感じてお腹が痛くなった経験があるかと思います。
これは、ストレスを感じると、自律神経を介して「脳から腸」にストレスの情報が伝わり、下痢や便秘などの異常が起こるためです。
このように、「脳から腸」への情報伝達経路がある一方で、空腹や満腹などの腸の情報を「腸から脳」に伝える経路も存在します。
このように、脳と腸は自律神経系やホルモンやサイトカインなどの情報を介して密に関連していることが知られています1)。この腸と脳が互いに影響を与え合う関係を「脳腸相関」または「脳腸軸」と呼びます。
近年は、この関係に関与する腸内細菌の役割を重視して「腸内細菌-脳腸相関」あるいは「腸内細菌-脳-腸軸」とも呼ばれています。
図1. 脳腸相関のイメージ
最近の腸内細菌の研究で、腸内細菌が脳腸相関に関わる重要な存在として注目されるようになりました。注目されたきっかけは、無菌マウスを用いた基礎研究の報告です。
腸内細菌を持たない無菌マウス、通常のマウス、そしてビフィズス菌やバクテロイデス属細菌などの特定の腸内細菌だけを持つマウスにストレスを加えたところ、
● | 無菌マウスは、通常のマウスよりストレスに対して過敏である |
● | 無菌マウスは通常のマウスに比べ、脳の神経系を成長させるための因子が少ない |
● | バクテロイデス属細菌をもつマウスのストレス応答性は、無菌マウスと同程度に過敏 |
● | ビフィズス菌を持つマウスのストレス応答性は、通常のマウスと同じ程度に低い |
● | 無菌マウスに通常の腸内細菌を移植すると、多動や不安行動が正常化する |
などの結果が得られました2-3)。
つまり、腸内細菌の有無が、脳内でのストレス反応に影響を与えていること、さらに、ストレス反応を抑える働きがあるのは、腸内細菌全体ではなく、特定の腸内細菌であることが示されました。
図2. 腸内細菌-脳腸相関のイメージ
腸内細菌がヒトのストレス応答に影響を与えることができるかどうかは、世界中で研究が進められている最中ですが、これまでにヒトを対象に実施された研究をいくつかご紹介します。
① | L. casei Shirotaを含む乳製品が気分や認知機能に与える影響を調査するため、132人の健常者を対象にランダム化比較試験を行いました。その結果、摂取20日後の全体解析では介入群とプラセボ群の間に有意な差は見られなかったものの、ベースラインで抑うつ指数が高かった群に絞った解析では、介入群が対照群と比較して有意な抑うつ気分の改善が示されました4)。 |
② | 健常者にプラセボまたはL. helveticus R0052とB. longum R0175の組み合わせを30日間投与した、二重盲検無作為化並行群間試験において、摂取30日後、対照群と比較して、介入群では抑うつ気分だけでなく、自覚的ストレス度の有意な改善も認められました5)。 |
③ | 8週間後に進級試験を控えた医学部生をプラセボ群と介入群の2群に無作為に分け、介入群にL. casei Shirotaを含む乳製品を、対照群にはプラセボを8週間摂取させた無作為化試験において、後観察期間における腹部症状のスコアと、試験1日前における唾液中のコルチゾール (ストレスホルモン) 濃度は、プラセボ群よりも介入群の方で低いことが認められました6)。 |
これらの結果は、プロバイオティクスの摂取が、ストレスと関連した心身の諸症状を予防または改善する可能性を示しています。
また、プロバイオティクス摂取が脳活動に与える影響をMRIで評価する研究も行われています。
④ | 試験参加者はプロバイオティクス摂取群、通常のヨーグルト摂取群、非摂取群の3群に振り分けられ、4週間にわたり摂取を行いました。その後、不安を引き起こす刺激による脳活動の変化を機能的MRIで解析した結果、プロバイオティクス摂取群は他の2群に比べて、不安に関連する脳領域の活動性が減弱していることが分かりました7)。 |
現状、ヒトにおける腸内細菌とストレス応答の関係は、研究数が少なく未解明の点も多いですが、少なくとも、「腸内環境は精神状態に影響する可能性がある」ということを覚えていただけたら幸いです!
上記で紹介したヒトでの試験系は、オルトメディコでも実施可能ですので、
興味がありましたらお気軽にお問い合わせください。
1) | Mayer, E. Gut feelings: the emerging biology of gut–brain communication. Nat Rev Neurosci 12, 453–466 (2011). |
2) | Sudo N et al. Postnatal microbial colonization programs the hypothalamic-pituitary-adrenal system for stress response in mice. J Physiol. 2004; 558: 263‒275. |
3) | 須藤 信行: 腸内細菌学雑誌, 31: 23-32, 2017. |
4) | Benton D, Williams C, Brown A. Impact of consuming a milk drink containing a probiotic on mood and cognition. Eur J Clin Nutr. 2007; 61: 355‒361 |
5) | Messaoudi M et al. Assessment of psychotropic-like properties of a probiotic formulation (Lactobacillus helveticus R0052 and Bifidobacterium longum R0175) in rats and human subjects. Br J Nutr. 2011; 105: 755‒764. |
6) | Kato-Kataoka A et al. Fermented Milk Containing Lactobacillus casei Strain Shirota Preserves the Diversity of the Gut Microbiota and Relieves Abdominal Dysfunction in Healthy Medical Students Exposed to Academic Stress. Appl Environ Microbiol. 2016; 82: 3649‒3658. |
7) | Tillisch K et al. Consumption of fermented milk product with probiotic modulates brain activity. Gastroenterology. 2013; 144: 1394‒1401. |
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