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2025.01.22
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前回、脳と腸は自律神経系やホルモンやサイトカインなどの情報を介して密に関連しており、この関係に腸内細菌が関与していること、そして腸内細菌はストレス反応やうつ・不安症状など精神障害にも影響を及ぼすことをご紹介しました。
今回は、腸内細菌が中枢神経系に影響を与える一部の経路と腸内細菌と認知機能の関係について、簡単にご紹介します。
腸内細菌がどのように中枢に情報伝達するかは多くの経路が想定されています。
今回は、報告のある一部の経路についてご紹介します。
① | 迷走神経、脊髄求心性神経を介する経路 腸管には多くの求心性神経が分布し、腸管の状態を中枢神経に情報伝達しています。実際、乳酸菌L. rhamnosus JB-1株をマウスに投与すると、ストレス惹起性の不安・抑うつ関連行動が減弱しましたが、迷走神経を切除したマウスではこのような結果が得られなかったため、不安減弱効果は迷走神経を介して作用することが示されました1)。 |
② | 腸内細菌の代謝産物が全身を循環する経路 腸内細菌は難消化性の食物繊維やオリゴ糖を分解し短鎖脂肪酸を生成します。このような生成物が全身をめぐり、神経系に対して直接的もしくは間接的に作用すると想定されています。実際、腸内細菌叢を欠く無菌マウスに短鎖脂肪酸の一種である酪酸を経口摂取させると、脳の神経系を成長させるための因子の濃度が上昇するという結果が得られました2)。 |
③ | 免疫系による情報伝達経路 腸内細菌が菌体成分として有するLPSやペプチドグリカンは腸管免疫系のマクロファージや樹状細胞からサイトカインの産生を誘導し、免疫系を制御することが知られています。中枢神経系の恒常性維持や機能は全身の免疫系と深く関与することが報告されていることから3)、腸内細菌が全身免疫系を介して脳機能に作用する可能性が考えられています。 |
図1. 腸内細菌と中枢をつなぐ経路のイメージ
腸内細菌が脳に影響を及ぼすならば、認知機能との関連が考えられます。
軽度認知障害 (MCI) を持つヒトを対象とした横断的研究では、
● | MCIと認知機能正常者の間には腸内細菌叢の構成に有意な違いがあり、MCIはバクテロイデス>30%の者が多い |
● | バクテロイデス優位 (バクテロイデス>30%) 群は、脳MRIの異常所見が多く、VSRADスコア (海馬の萎縮度) もバクテロイデス非優位群と比べて高値 |
● | 多変量解析によって既知の認知症リスク因子を調整しても、バクテロイデス優位群は軽度認知障害の有意な関連因子である (オッズ比 5.36) |
といった結果が得られました4)。
つまり、腸内細菌叢がMCIと関連している可能性があること、そして腸内細菌の中で特にバクテロイデスが関連している可能性があることを示しました。
また、MCIと腸内細菌叢との関連を調査した他の論文では、
● | 男女に共通して、MCIに多い腸内細菌の分類群としてClostridium_XVIII、Eggerthella、Erysipelatoclostridium、Flavonifractor、およびRuminococcus 2が、MCIに少ない分類群としてRoseburia、Prevotella、Oscillibacter、Megasphaera、Victivallisが観察された |
● | MCIに関連すると考えられる腸内細菌の分類群には性差がある |
ことが報告されています5)。
MCIに関連する腸内細菌について既知の特徴から、MCIグループの腸内細菌叢の組成は、腸内細菌叢の調節不全、腸および血液脳関門透過性の増加、および慢性神経炎症の増加につながり、これらの異常が長期間持続すると最終的に認知機能の低下に繋がるメカニズムが導き出されました。
また、他の研究チームでは、加齢とともに著しく減少するビフィズス菌に着目し、MCI患者にプラセボ群またはBifidobacterium breve (B.breve) MCC1274を24週間投与したところ、
● | 摂取24週間後、対照群に比べ、B.breve MCC1274摂取群ではMMSE (ミニメンタルステート検査) のOrientation (個人が年、月、日、週の日付、時刻、場所、および人を正しく答える能力を測定する) の悪化が抑制された |
● | 摂取24週間後、対照群に比べ、B.breve MCC1274摂取群では脳萎縮の進行が抑制していることが示唆された |
などの結果が得られました6)。
つまり、プロバイオティクスを24週間摂取すると脳萎縮の進行が抑制され、MCI被験者の認知障害の予防に役立つことが示唆されました。
上記のように、脳腸相関における腸内細菌の役割を解明するため、腸内細菌叢の解析やプロバイオティクスといった様々なアプローチがされていますが、未だ、完全な解明までには至っておりません。
いつか腸内細菌が治療のターゲットになるのでしょうか。
簡単な話ではなさそうですが、楽しみですね。
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【参考文献】
1) | Bravo JA et al. Ingestion of Lactobacillus strain regulates emotional behavior and central GABA receptor expression in a mouse via the vagus nerve. Proc Natl Acad Sci U S A. 2011; 108: 16050‒16055. |
2) | Schroeder FA et al. Antidepressant-like effects of the histone deacetylase inhibitor, sodium butyrate, in the mouse. Biol Psychiatry. 2007; 62: 55‒64. |
3) | Ziv Y et al. Immune cells contribute to the maintenance of neurogenesis and spatial learning abilities in adulthood. Nat Neurosci. 2006; 9: 268–275. |
4) | Saji N et al. The relationship between the gut microbiome and mild cognitive impairment in patients without dementia: a cross-sectional study conducted in Japan. Sci Rep 2019; 9: 19227. |
5) | Hatayama K et al. Characteristics of Intestinal Microbiota in Japanese Patients with Mild Cognitive Impairment and a Risk-Estimating Method for the Disorder. Biomedicines. 2023;11(7):1789. |
6) | Asaoka D et al. Effect of Probiotic Bifidobacterium breve in Improving Cognitive Function and Preventing Brain Atrophy in Older Patients with Suspected Mild Cognitive Impairment: Results of a 24-Week Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Trial. J Alzheimers Dis. 2022;88(1):75-95. |
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