抄録
本サークルでは、企業に勤める一般消費者の味覚傾向を把握することを目的に、複数のブドウ品種 (藤稔、シャインマスカット、泉州パープル、サニードルチェ、デラウェア、キャンベル、クイーンニーナ、巨峰) とナシ品種 (幸水、豊水) を対象に、株式会社オルトメディコの社員18名によるパネル評価を実施した。その結果、ブドウの特性と嗜好性の傾向が示唆されたほかにも、ナシの品種ごとの特徴をとらえた官能評価を実施することができた。

I. はじめに
果実の官能評価は、消費者の嗜好や市場動向を把握する上で重要な役割を果たしている。特に、ブドウとナシは日本の果樹生産において主要な品目であり、その品質評価は生産者や流通業者にとって大きな関心事となっている。
本サークルでは、企業に勤める一般消費者の味覚傾向を把握することを目的に、複数のブドウ品種 (藤稔、シャインマスカット、泉州パープル、サニードルチェ、デラウェア、キャンベル、クイーンニーナ、巨峰) とナシ品種 (幸水、豊水) を対象に、株式会社オルトメディコの社員18名によるパネル評価を実施した。

II. 方法
(1). 果実の準備
藤稔、シャインマスカット、泉州パープル、サニードルチェの購入には「生産者さんから新鮮な食材を直接お取り寄せできる通販サイト」である『食べチョク』 (運営: 株式会社ビビッドガーデン; 東京都港区) を介して、大阪府、山形県、山梨県の農家さんから購入した。また、デラウェアはマルエツ春日駅前店 (東京都文京区)、キャンベル、クイーンニーナ、巨峰はスターフルーツ小石川店 (東京都文京区) で購入した。なお、スターフルーツ小石川店では、味に変化をつけるためにスイカ2種 (赤玉、黄玉) も購入した。
(2). 参加者
参加者は、オルトメディコ公式サークルである「味くらべサークル」から募集した。また、サイボウズを介してサークル体験を希望する新入社員も募集した。さらに、当日の飛び入り参加も許容した。
(3). 評価指標
ブドウの官能評価には、岡山県農林水産総合センター農業研究所 (岡山県赤磐市) が使用していた官能評価項目と指標を参考とした1)。参加者には甘味 (感じない、わずかに感じる、弱く感じる、感じる、強く感じる)、酸味の少なさ (強く感じる、感じる、弱く感じる、わずかに感じる、感じない)、濃さ (うすい、ややうすい、どちらでもない、やや濃い、濃い)、多汁性 (多汁ではない、やや多汁ではない、どちらでもない、やや多汁、多汁)、硬さ (やわらかい、やややわらかい、どちらでもない、やや硬い、硬い)、皮離れ (しにくい、ややしにくい、普通、やや良い、良い)、甘い香り (感じない、わずかに感じる、弱く感じる、感じる、強く感じる) 7つの項目に対して、5段階の尺度で回答させた。
ナシの官能評価には陳らがリンゴの官能評価に用いていた評価項目と指標を参考とした2)。参加者は、色、硬さ、甘味、酸味、糖酸バランス感、サクサク感、喉ごし の7項目に対して、非常に弱い、弱い、やや弱い、普通、やや強い、強い、非常に強い の7段階で回答した。
なお、本活動では統計解析は行わなかった。
(4). 官能評価の準備
果実との写真撮影後 (図1)、官能評価のため、ナシは一口サイズにカットし(図2)、ブドウは一粒ずつ取り分けた(図3)。品種ごとに判別できるように、名札も作成した。

図1. 果実との写真撮影

図2. ナシのカット風景

図3. ブドウのとりわけ風景

III. 結果・考察
集合写真を撮影後 (図4)、参加者は、任意の順番で果実を摂取し、官能評価の記録を行った (図5~7)。最終的にサークルメンバー12名、新入社員5名 (参加体験) に加えて、飛び入りで2名が参加した。

図4. 集合写真

図5. 評価風景1

図6. 評価風景2

図7. 評価風景3

官能評価の回答が得られた11名~16名の平均値をレーダーチャートに示した (図8)。
ブドウについて、レーダーチャート結果をまとめると形状の類似性から3グループに分けられた。

図8. 官能評価の結果

巨峰同じく紫黒色のブドウである藤稔は、巨峰と比べて大粒であったが、官能評価の結果は類似していた。藤稔の親は「井川682」と「ピオーネ」、「ピオーネ」の親が「巨峰」と「カノンホールマスカット」であるので、藤稔は巨峰の特性を引き継いでいるものと考えられた。
一方で、クイーンニーナの親は「安芸津20号」×「安芸クイーン」、「安芸クイーン」は、両親が「巨峰」であるにもかかわらず、シャインマスカットや泉州パープルと類似した結果であり、興味深かった。
また、泉州パープルは見た目が藤稔と酷似していたが、特性としては緑黄色のシャインマスカットや赤色のクイーンニーナと類似した結果であった。泉州パープルは「ことりはぶどう園」 (大阪府泉南市) のブランド品種で、皮ごと食べることができることを特徴としている。官能評価の結果から、泉州パープルは巨峰や藤稔よりも皮離れの特性が弱かったことでその他の評価にも影響し、巨峰や藤稔と比べてシャインマスカットやクイーンニーナに類似したのではないかと推察した。
「一番好きだったブドウ」のアンケートを実施したところ、回答が得られた7名の結果は以下の通りであった: 藤稔、2名; シャインマスカット、1名; 泉州パープル、2名; クイーンニーナ、1名; 巨峰、1名。この結果を考慮すると、レーダーチャートが大きくなる特性をもつ品種ほど好まれる可能性があった。
サニードルチェは皮と果肉が剥離しに特徴があり、実際に、官能評価の結果に表れていた。また、デラウェア、キャンベルは、どちらも他のブドウと比較して小粒で皮も硬く、キャンベルでは種も含まれていた。サニードルチェ、デラウェア、キャンベルこれらの特徴は、全体的な評価に対して負の方向に影響したのではないかと考えられた。
最後にナシについて、発注先の農家さんの説明によると、幸水はさわやかな甘味、豊水は甘味のなかの酸味の調和を特徴とする品種であり、これらの特徴が2品種の違いとしてレーダーチャートに表れていた。本活動におけるナシの官能評価にはリンゴの評価に用いられていた指標を参考としたが、甘味や酸味、そのバランスについては、ナシにおいても特性を評価することができると示唆された。

IV. まとめ
本サークルでは、企業に勤める一般消費者の味覚傾向を把握することを目的に、複数のブドウ品種 (藤稔、シャインマスカット、泉州パープル、サニードルチェ、デラウェア、キャンベル、クイーンニーナ、巨峰) とナシ品種 (幸水、豊水) を対象に、株式会社オルトメディコの社員18名によるパネル評価を実施した。ブドウの官能評価では、近縁の品種の類似した特性や、官能評価の指標と嗜好性の関連が示唆され、興味深い結果であった。また、ナシの官能評価では、品種ごとの特徴をとらえた官能評価を実施することができた。

【謝辞】本サークル活動にご参加いただきました皆様に感謝の意を表します。

引用文献
1) 岡山県農林水産総合センター農業研究所 環境研究室. 15. ブドウのおいしさ (味、食感、香り) の特長の視覚化 [Internet]. 2018 [cited 2024 Aug 27]. Available from: https://www.pref.okayama.jp/uploaded/life/623117_5291267_misc.pdf
2) 陳介余, 張函, 繆冶煉ら. りんごのおいしさ評価に関する研究. 美味技術研究会誌. 2011;17:15–20.